シニア起業家のリアル

定年後も現役!元部長が経験を活かし起業したコンサルティング業のリアルな苦悩と喜び

Tags: シニア起業, コンサルティング, 経験活用, セカンドキャリア, 失敗談

定年後、自身の経験を活かしたコンサルティング業への挑戦

今回のインタビューは、大手電機メーカーで製造部門の部長を長年務め、定年退職後に自身の経験とノウハウを活かしてコンサルティング業を立ち上げた、斉藤 誠さん(65歳)にお話を伺いました。斉藤さんは、中小企業向けの生産性向上コンサルティングを専門とし、現役時代に培った深い知識と問題解決能力で多くの企業を支援しています。しかし、その道のりは決して平坦ではなかったと語ります。成功の秘訣、そして乗り越えてきた失敗談から、シニア起業のリアルな姿を深掘りします。

起業のきっかけ:培った経験を社会に還元したい

斉藤さんが起業を考え始めたのは、50代後半、定年が視野に入り始めた頃でした。 「長年、大手企業で製品開発から製造プロセスまで一貫して携わってきました。定年後はゆっくり過ごすのも良いのですが、このまま自分の知識や経験が埋もれてしまうのはもったいないと感じたのです」と斉藤さんは振り返ります。 現役時代に経験した数々のプロジェクト、人材育成、そして経営層との折衝を通じて得た知見は、中小企業にとって貴重な財産となるはずだと確信したことが、起業への大きな動機となりました。特に、地方の中小企業が抱える生産効率の課題や技術継承の問題に、自身の経験が役立つのではないかという思いが強かったそうです。

事業内容:中小企業の生産性向上を多角的に支援

斉藤さんの事業は、主に以下のようなコンサルティングサービスを提供しています。

多くの中小企業では、具体的な改善策が見つけられない、あるいはIT導入のノウハウがないといった課題を抱えており、斉藤さんのような実践経験豊富なコンサルタントは非常に重宝されていると言います。

成功体験:長年の経験がもたらした確かな信頼と成果

斉藤さんのコンサルティング業が軌道に乗った背景には、いくつかの成功体験がありました。

一つは、「大企業の常識を中小企業向けに翻訳する能力」です。 「大手企業で当たり前だった製造管理手法も、そのまま中小企業に導入しようとすると、リソースや文化の違いで頓挫することがあります。私の役割は、大企業の豊富な事例や理論を、その中小企業の規模や特性に合わせてカスタマイズし、実行可能な形に落とし込むことだと考えています」と斉藤さんは語ります。 ある金属加工会社では、斉藤さんの提案により、製造ラインのレイアウト変更と品質チェック工程の見直しを実施。その結果、製品の不良率が15%減少し、生産リードタイムを20%短縮することに成功しました。これは、斉藤さんが現役時代に培った現場目線と、具体的なデータ分析に基づく提案が評価された事例です。

また、「シニアならではの信頼感と人脈」も大きな強みとなりました。 「起業当初は知人からの紹介が主な顧客獲得経路でした。長年のキャリアで築き上げた人脈は、新しいビジネスを始める上で何よりの財産でした」と斉藤さんは述べます。 また、若いコンサルタントにはない落ち着きや包容力が、中小企業の経営者から安心感を得られ、長期的な信頼関係の構築に繋がっているとのことです。

失敗談:大手企業の「常識」が通用しない壁

しかし、成功の裏側には、斉藤さんが乗り越えてきた数々の失敗もありました。

最も大きな壁は、「大手企業の常識が、中小企業では必ずしも通用しない」という現実でした。 「大手企業では、予算も人材も潤沢にあり、計画を立てれば実行できるという前提がありました。しかし、中小企業では、限られたリソースの中で最大限の効果を出すことが求められます。最初の頃は、大手での成功体験に囚われ、中小企業にはオーバーテクノロジーとも言えるような大規模なシステム導入や複雑なプロセス改善を提案してしまい、現場から反発を受けることがありました」と斉藤さんは苦笑いを浮かべます。 ある地方の食品加工会社では、大規模な自動化ラインの導入を提案しましたが、初期投資の大きさや従業員のスキルギャップが障壁となり、結局は頓挫。斉藤さんはその時、「相手の状況を十分に理解せず、自分の経験を押し付けてしまった」と痛感したそうです。

また、「デジタルツールの活用不足」も初期の課題でした。 現役時代は社内のIT部門が全て対応してくれていたため、自分で資料作成ソフトを使いこなしたり、オンライン会議システムを導入したりすることに手間取ったと言います。 「ウェブサイトの作成やSNSでの情報発信など、現代のビジネスで不可欠なデジタルマーケティングにも当初は全く手が回りませんでした。その結果、集客面で非常に苦労し、最初の数カ月は顧客獲得に四苦八苦しました」

さらに、「体力的な無理」も経験しました。 現役時代のペースで仕事をしようと、無理な出張や徹夜での資料作成を重ねた結果、体調を崩し、一時的に活動を制限せざるを得ない状況に陥ったこともありました。 「年齢を重ねた自分の体と向き合うことの重要性を、身をもって知った瞬間でした」と斉藤さんは語ります。

失敗から学んだこと:柔軟性と学習、そして自己管理

これらの失敗を通じて、斉藤さんは多くの教訓を得て、事業を軌道に乗せるための転換を図りました。

現在の状況と今後の展望

現在、斉藤さんのコンサルティング業は安定した顧客基盤を築き、紹介による新規案件も増えています。特に、中小企業のDX推進支援や、若手社員向けのリーダーシップ研修など、自身の経験と学びを融合させた新たなサービス展開にも意欲的に取り組んでいます。 「現役時代とは異なり、自分のペースで仕事ができること、そして直接企業の成長に貢献できる喜びは、何物にも代えがたいものです。第二の人生でこれほど充実した日々を送れるとは思っていませんでした」

シニア起業を考えている方へのメッセージ

最後に、斉藤さんからシニア起業を検討している方々へ、力強いメッセージをいただきました。

「定年後の起業は、決して簡単な道ではありません。しかし、長年培ってきた皆さんの経験や知恵は、社会にとって大きな価値を持っています。一番大切なのは、『自分に何ができるのか』を真剣に考え、一歩踏み出す勇気を持つことです。失敗は必ずあります。しかし、それを恐れるのではなく、そこから学び、改善していく姿勢こそが、成功への鍵となります。そして何よりも、健康に留意し、無理のない範囲で、楽しみながら取り組んでください。皆さんの第二の挑戦を心から応援しています。」